一応、「スペアナ」など名を付ける以上、ディスプレイに表示される波形を眺めて「**dBmかぁ〜」などと、つぶやいてみたいものです。そのつぶやき声の大きさは、ログアンプ回路の善し悪しにかかっています。
たわごとのページ#20でご紹介しましたが、この前、秋月電子通商で1チップのログアンプICを見つけました。今は昔と違って、性能の良い機能回路も1チップで売っているのです。性能は、実にプロ仕様なみといっても過言ではありません。これを利用することで、大幅な部品点数の削減にもなり、また高性能なスペアナの対数増幅回路が簡単にできてしまいます。
図1.ログアンプIC(AD8307)
DC〜500MHzまでの信号をログスケールで出力できる。
まず、このICの特徴をご紹介し、実際にAD8307を使った回路を設計して、アンプ性能を確かめていきたいと考えています。
特徴
応用
図1.を見てください。AD8307は、8ピン(
SO -8)パッケージにもかかわらず、こんな高性能なログアンプなのです。
それは、いたって安定で使いやすく、特に外部回路素子がいりません。2.7
V 〜 5.5 V 、7.5 mA の単電源動作で、22.5
mW(3V動作時)という、これまでにない低消費電力化が図られています。また、動作をOFFするCMOS互換の高速な制御ピンが搭載され、スタンバイ電流はわずかに150
μA以下です。
ログアンプ回路には、-3 dB帯域幅:900MHz、
14.3 dBの小信号利得を持った高性能なカスケード・アンプ/リミッタのセルを使用しています。
入力は差動であり、適度に高いインピーダンス(1.1kΩ
約1.4pF )です。AD8307は、約−75dBm
(50Ωの信号源で、±56 μV の正弦波)
から、+17 dBm(±2.2 Vの正弦波)までのダイナミック・レンジを持っています。対数のリニアリティは、このレンジの中心の部分において、一般的に100MHz以下で±0.3dB以内というプロ仕様なみです。500MHzでわずかに悪くなる程度です。
AD8307は、低周波(20Hz )以下で使われることもあるかもしれませんが、最小限の周波数限界はありません。出力は、チップ内部の12.5kΩの抵抗を通して2μA/dBの電流によって発生した25mV/dBスケールの電圧出力です。したがって、出力電圧は、-74dBm入力で0.25Vから、+16dBm入力で2.5Vまで変化します。(インターセプトポイントは、正弦波入力で20μV
rms すなわち -84dBm になります)。このスロープ及びインターセプトは、外部で調整可能です。2.7Vの電源電圧では、十分なダイナミック・レンジを確保するため、例えば15mV/dBまで出力範囲を狭める必要があるかもしれません。AD8307は、電源電圧変動や温度変動に対して、十分な安定性をもっています。低コスト、小さいサイズ、低消費電力、高精度で安定性が良く、高いダイナミック・レンジを有し、低周波、IF中間周波数からUHFまで扱える周波数範囲が広いことから、デシベル信号表示を要求する多くのアプリケーションで役に立ちそうです。
パラメータ | 条件 | Min | Typ | Max | 単位 |
●一般特性 | |||||
入力範囲(±1 dB 誤差範囲) | 50Ω入力 | −72 | 16 | dBm | |
対数の適合範囲 | 100 MHz 以下 80 dB中心 | ±0.3 | ±1 | dB | |
500 MHz 75 dB中心 | ±0.5 | dB | |||
対数のスロープ 対 温度 |
未調整時(*1) | 23 | 25 | 27 | mV/dB |
23 | 27 | mV/dB | |||
対数インターセプト 対 温度 |
正弦波振幅;未調整時(*2) | 20 | μV | ||
50Ω入力の正弦波相当 | −87 | −84 | −77 | dBm | |
−88 | −76 | dBm | |||
入力雑音スペクトル密度 | 入力短絡 | 1.5 | nV/√Hz | ||
動作雑音フロア | RSOURCE = 50 Ω/2 | −78 | dBm | ||
出力抵抗 | 4ピン−GND間 | 10 | 12.5 | 15 | kΩ |
内部負荷容量 | 3.5 | pF | |||
応答時間 | 小信号入力時 10%-90%, 400 ns 0 mV-100 mV, CL = 2 pF |
400 | ns | ||
大信号入力時 10%-90%, 500ns 0 V-2.4 V, CL = 2 pF |
500 | ns | |||
最高動作周波数 (*3) | 500 | MHz | |||
最低動作周波数 | AC入力結合時 | 10 | Hz | ||
●アンプ・セル特性 | |||||
セル 帯域幅 | -3dB周波数 | 900 | MHz | ||
セル 利得 | 14.3 | dB | |||
●入力特性 | |||||
DCコモンモード電圧 | AC入力結合時 | 3.2 | V | ||
コモンモード範囲 | どちらか一方での入力 (小信号入力時) |
−0.3 | 1.6 | Vs−1 | V |
DC入力オフセット電圧 | RSOURCE ≦ 50Ω | 50 | 500 | μV | |
ドリフト | 0.8 | μV/℃ | |||
入力抵抗 | 差動時 | 1.1 | kΩ | ||
入力容量 | どちらか一方のピン-GND間 | 1.4 | pF | ||
バイアス電流 | どちらか一方の入力 | 10 | 25 | μA | |
●電源インターフェース | |||||
供給電圧 | 2.7 | 5.5 | V | ||
供給電流 | VENB ≧ 2 V | 8 | 10 | mA | |
VENB ≦ 1 V | 150 | 750 | μA |
注釈
(*1)これは、出力とGND間に直列に抵抗を付け加えることによって下方調整可。
50 kΩの抵抗で、公称 20 mV/dB下がります。
(*2) これは、8dB/Vのスケールで、ピン5に印可する電圧によって、どちらの方向にも調節可
(*3) 900MHz動作の応用についてを参照してください。
(*4) 内部のオフセット補正帰還ループによって通常自動的にキャンセルされているが、
ピン3とGND間に電圧を供給することでも手動でキャンセルできる
アプリケーションを見て下さい。
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